この記事は、FRONTIAのMisa（ミサ）が書き上げた新作の怖い話です。背筋がひんやり冷たくなる怪談・怖い話や都市伝説をお届けしていますので、ぜひご覧ください。
怪談ストーリー
友人たちと、夏の終わりに山奥の温泉宿へ泊まりに行くことになった。
古いけれど情緒のある宿で、虫の声と風鈴の音が妙に心地よく、どこか懐かしい気分にさせてくれた。
夜、食事のあとに館内を散歩していたときのこと。
廊下の奥にある障子のすき間から、誰かの浴衣姿がちらりと見えた。
白地に朝顔の柄の浴衣。小柄な少女のように見えたが、足音もしないまま、ふわりと影が横へと消えた。
気になって近づくと、そこは使われていない旧館だった。
「立入禁止」と書かれた札がぶら下がっていたけれど、好奇心が勝った。
木の床はギシギシと軋み、空気がやけにひんやりしていた。
ふと奥の襖が少しだけ開いていて、そのすき間から誰かがこちらをのぞいていた。
目だけが暗がりの中でじっと、息をひそめるようにこちらを見ていた。
一瞬で背筋が冷たくなり慌てて振り返ると、友人たちが廊下の向こうから手招きしていた。
どうやら一人でフラフラ歩いていたようで、旧館に入ったことに気づかれていなかったらしい。
何も言わずに本館へ戻り、気のせいだったと思うことにした。
その夜は特に変なことも起きず、朝になってすぐに帰路についた。
ただ、ひとつだけおかしかったのは、宿を出るときに宿の女将が笑いながらこう言ったことだった。
「今朝、脱衣所にお忘れの浴衣がありましたよ。朝顔の柄の。お仲間の中に、どなたかいらっしゃいました？」
誰もそんな浴衣は着ていなかった。
後日談
数日後、家でふとスマホの写真フォルダを見返していた。
温泉宿で撮った写真の中に、覚えのない1枚が紛れていた。
夜、館内を歩いている友人たちの後ろ姿。そして、そのずっと奥の廊下に、白地に朝顔の柄の浴衣の少女が立っていた。
誰もその写真を撮った記憶がない。
写真の奥には明かりが灯っていた。
その少女の顔は光の中に溶けるようにして、ほとんど見えなかった。
一緒に楽しみたかったのかもね
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