この記事は、FRONTIAのMisa(ミサ)が書き上げた新作の怖い話です。背筋がひんやり冷たくなる怪談・怖い話や都市伝説をお届けしていますので、ぜひご覧ください。
怪談ストーリー
高校の夏休み、俺たちはクラスメイト数人でキャンプに出かけた。
場所は人里離れた山のふもとにある、廃墟になった施設の近く。
かつて保養所として使われていたが、火事で閉鎖され、いまは崩れかけの建物が残っているだけだった。
夜、肝試しをすることになった。
二人一組で廃墟の建物の周囲を一周して戻ってくる。ただそれだけのルール。
暗闇の中、懐中電灯一つを頼りに歩く。ざわざわと虫の声。ひんやりと湿った空気。
空には満月がぼんやりと浮かんでいた。
俺は友達のリュウと最後のペアになった。
順番を譲ったから、気づけば二人だけが残っていた。
「じゃ、行こうか」
そう言って建物に近づくと、窓の割れた影の奥から、ふっと誰かの顔が覗いた気がした。
「今、見えたよな?」
リュウが小声で言う。俺も頷いたが、もう少し先に進むことにした。
建物の裏手にまわったとき、足元に何かが転がっていた。
白く汚れたお面だった。無表情で微かに赤いしみが付いている。
リュウがそれを拾い上げた瞬間、突風が吹いたように周囲の空気が変わった。
耳鳴りのような音がして、俺はとっさに「戻ろう」と言った。
走ってキャンプ場に戻ると、他の皆が焚き火の周りで話していた。
「おかえりー。…あれ?一人?」
誰かがそう言った。
意味が分からなかった。
俺の横にはリュウが立っているはずだった。
でも、誰の目にも俺しかいなかった。
「冗談やめろよ」と言っても、誰も笑わなかった。
俺は確かに二人で行った。
でも、帰ってきたのは俺一人だった。
翌朝、辺りを探したがリュウの姿はなかった。
彼の荷物だけが、まるで最初から使われていなかったかのようにテントの隅に転がっていた。
後日談
夏が終わって二学期。
教室に戻るとリュウの席がなぜか埋まっていた。
見知らぬやつが座っていて、誰に聞いても「最初からあいつだよ」と言う。
あれから俺だけがリュウのことを覚えている。
スマホの写真も、メッセージも、すべて消えていた。
唯一残っていたのは、あの夜の録音アプリに入っていた音声。
ひゅう、と風の音のあとに、小さく囁くような声が入っていた。
「…次は、おまえ…」

記憶にないなら、それが一番幸せだよ。
覚えちゃったら戻れなくなるからさ





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